流行語には果たして価値があるのでしょうか?続きは次節でo未来は予測不能と知り、変事への備えを怠るな 日本語が流暢ではない私にとって、日常見聞きする日本語は初耳のことが多く、毎日が勉強です。
妻の実家で過ごした2、 3年前のお正月に初めて耳にした「ビミョウ」という言葉も、初めて触れる言葉でした。
何が主題だったのかは失念しましたが、たしか、アメリカの食べ物か日本の政治家か何かについて義理の家族に意見を求めたところ、彼らは口を揃えてこう言ったのです。
「うーん、微妙」。
そこで、その「微妙」とはどんな意味なのか、良いことなのか悪いことなのかと尋ねました。
義理の家族はその質問に対し、顔を見合わせてとまどった様子を見せ、最終的には義理の妹がこう結論付けたのです。
「『微妙』の意味は、 『微妙』ってことだと思うよ」「複雑性」という言葉は、これとよく似ています。
この言葉は現在、ビジネスや経済学で人気を博していますが、その言葉の意味も、たいへんに「複雑」なのです。
この節では、この流行中の言葉「複雑性」の意味を探り、果たして有用なものなのか否かを見て行きたいと思います。
「複雑性」という言葉は、物理学とコンピュータ・サイエンスを語源とします。
しかし、科学者でさえ、この言葉の意味について統一した意見を持ちません。
ある物理学者が数年前にこの言葉の定義を見つけようと試みたのですが、 30種類を超える定義を列挙するに留まりました。
ただし、この種の定義には、お互いに重複しているものもたくさんあります。
例えば、より雑然としているものがより「複雑」とされるというのが、そのよい例です。
本から引きちぎれてバラバラになっているページのほうが、整然と章立てされて並んでいるものより「複雑」だったり、コンピュータ解析により時間がかかるほうが、より「複雑」だったり、という具合です。
経済学者は、これとはちょっと異なる見解を持つようです。
ノーベル賞受賞者であるハープ・サイモン博士によると、 「より高い複雑性」とは「より多くの階層の存在」を示すそうです。
つまり、たくさんの章立てがあるほうが、様々な内容のページを一緒にしたものより複雑だ、ということです。
これは、物理学者の見解と相達します。
サイモン博士は、いわば古式ゆかしい経済学者で、定義は常に有用であると考えるようです。
一方、ブライアン・アーサー博士は、その1996年発表の「複雑性経済学」についての論文の中で、胸を張って「複雑性」についての定義を拒否しています 2006年5月に米国で出版された、経営コンサルタント、 E ・Pによる複雑性経済学に関する著作『富の起源(The Origin of Wealth : Evolution,Complexity, and the Radical Remarking of Economics)』でも、その527ページにもわたる大作の中で、複雑性についての定義は一切為されていません。
そもそも定義がないのですから、あなたが複雑性とどう付き合っていけばよいか、ビジネス関連本が一致した意見を出せないのは当たり前です。
多くの本が複雑性を「ナビゲート」する方法を授けようとする一方で、私の手もとにある本はそれを「牽引する」方法を編み出そうとしており、ハーバード・ビジネス・レビューではそれを「駆逐する」べきであると提言、先述のPの著作では複雑性は「熱力学的に価値創造において不可欠」としている、といった具合です。
しかし、科学は定義にとどまらず、 「理論」を持つべき、ですよね?経潰学者や経営学の教授たちは、 「複雑性理論」に対するアプローチ法を、二つ持つようです(ご想像の通り、そこには統一した理論は見当たりませんが)0 ひとつは、ロシア人ノーベル化学賞受賞者、イリヤ・プリゴジーヌ博士率いる「ブリュッセル学派」と呼ばれる一派がとる方法です。
彼とその同僚達は、 「非平衡熱力学(NEQT)」と呼ばれる理論の先駆者として知られています。
伝統的な熱力学(CT)は、 「平衡」状態にある「閉じた」システムについて分析するものです。
ここでいう「閉じて」いるとは、外部から流れ込むエネルギーも外部に出て行くエネルギーもない、という状態を示します。
「平衡」しているとは、ある特定の微細な例外を除いて、システム全体に変更がない、という状態を指します。
「熱力学の第二法則」では、 「閉じた」システムは、ティーンエイジャーの部屋が掃除されたあとだんだんと散らかっていくように、いずれは減衰し無秩序になっていく、とされています。
だいたい、植物にしろ動物にしろ気象にしろ、ほとんどのシステムは常に移り変わっているものです。
もしあなたが「均衡(平衡)」しているなら、それはあなたが死んでいる、ということ。
そして、新しい秩序が誕生する直前が「無」の状態だという場合は、とても一般的です。
例えば、赤ちゃんの誕生や台風の発生など(ただし、これらの新秩序は、あくまでも地域的・部分的なものです。
さきほどの熱力学の第二法則は、宇宙全体をその対象としています)。
そして、これらのシステムは全て、外部に「開いて」います。
なぜなら、外部からのエネルギーの取り込みや、エネルギーの「浪費」 (特に赤ちゃんの場合など)が行われるからです NEQTはつまり、この種のオープンな「散逸システム(dissipative systems-DSs)」の説明なのです。
伝統的、あるいは「新古典派」経済学(NCE)が、 CTから得たメタファーに基づくようになったのは、自然な流れかもしれません(ただし、実際は、彼らが基盤とした熱力学は、第二法則を含まないごく初期の不完全なものでしたが)。
例えば、モノの価格・需要・供給は常に「均衡」しているべきである、という理論は、いつまでたっても解けない魔術のような存在になっています。
多くの問題を内包するNCEですが、ことに、生産と革新、つまり新しいものが生まれるという現象の説明には全く不適当でした。
そこで、このNCEに対抗するメタファーとしてNEQTに魅力を感じる人々が出てきたわけです。
実際、NCEを批判し「オーストリア学派」と呼ばれる経済学派を創設したJ ・シュムベーター博士と、プロゴジーヌ博士の間では、頻繁な接触があったようです。
今日、経済学と経営理論におけるブリュッセル学派の影響は、ヨーロッパでもっとも強いとされています。
ただし、影響のレベルは、主にメタファーの利用に留まっています。
なぜなら、 NEQT上の数学は、一般的なMBAや経済学者などは全く歯が立たないほど高度だからです。
ですから、人々はそれを利用して証明を行うのではなく、 DSを表現上利用している、というわけです。
例えば、ハートフォードシャー大学のR ・ステーシー博士率いる一派は、個人間コミュニケーションや組織の中での心理学を説明するうえで、 DSをメタファーとして利用しています。
米国で好まれる複雑性に対するもうひとつのアプローチ法は、シンクタンク「サンタ・フェ研究所(SFI)」が編み出した方法です。
この組織には、何人かのノーベル賞受賞者を含む、物理学者、生物学者、コンピュータ科学者などが含まれています。
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